産業連関分析
第二次波及効果
(第二次波及効果とは)
ある産業に需要が発生した場合に,その需要が産業の連関を通じて各産業にどれだけの生産増加をもたらすかを計算したものが,第一次波及効果を呼ばれたものでした.ここでは,その生産増加が所得の増加をもたらし,その所得の増加が消費を増加させ,その消費の増加が,また生産を増加させる過程を見てみることにします.これらの効果を第二次波及効果と呼びます.表3-1は,付加価値の内訳として雇用者所得を分離して計上した産業連関表です.
表3-1:産業連関表
産業1 | 産業2 | 中間投入計 | 最終消費 | 移輸出 | 移輸入 | 生産額 | |
産業1 | 10 | 20 | 30 | 20 | 20 | 10 | 60 |
産業2 | 30 | 50 | 80 | 20 | 20 | 20 | 100 |
雇用者所得 | 15 | 20 | |||||
その他付加価値 | 5 | 10 | |||||
付加価値計 | 20 | 30 | |||||
生産額 | 60 | 100 |
第一次波及効果として各産業の生産の増加を見ましたが,生産が増加した結果どれだけの付加価値が増加したかと言うことも重要な情報です.付加価値とは経済活動によって新たに創出された価値そのものですから,高い付加価値を創造することも重要な政策目標になります.表3-1から各産業ごとに付加価値額を生産額で割って「付加価値係数」を計算すると,
産業1の付加価値係数 = 20÷60 = 0.3333
産業2の付加価値係数 = 30÷100 = 0.3
となります.この付加価値係数を対角要素に持つ対角行列をVで定義します.この場合は,
という形の「付加価値係数行列」を得ることができます.(2-4)式を再掲すると,
となります.この式は,最終需要から波及する生産の増加を計算する式です.この式に付加価値係数行列を掛けることによって付加価値額が計算できます.つまり,
で付加価値額を求めることが可能になります.表3-1の産業連関表の値を用いると,
となり,検算ができます.
(雇用者所得係数と消費転換係数)
ここから,第二次波及効果の計算をしていくことにします.第二次波及効果を計算するためには,まずどれだけの雇用者所得が増加するかをまず計算します.表3-1を見てみると,産業1の生産額の60に対して雇用者所得は15となっています.この場合の産業1の「雇用者所得係数」は,
産業1の雇用者所得係数 = 15÷60 = 0.25
と計算できます.つまり,生産額が1単位増加すると雇用者所得が0.25単位増加することが分かります.同様にして,産業2の雇用者所得係数は,
産業2の雇用者所得係数 = 20÷100 = 0.2
と計算できます.
次に,所得の増加が消費の増加を誘発する効果を計算します.この計算を行うときに,実際の雇用者所得が消費に振分けられている割合を使用します.具体的には,「家計調査年報」(総務省(家計調査)のホームページ参照)を使用します.家計調査年報の勤労者世帯の消費支出を実収入で割った値を「消費転換係数」と呼びます.この値をここでは,0.7として話を進めていきます.この消費転換係数を用いることによって,世帯全体の消費の増加分を計算できますが,その増加分を各産業に振分けるためには,再び産業連関表を用います.
(第二次波及効果の計算)
それでは,第二次波及効果の計算の準備が整いましたので,実際に計算を行なっていきます.前回と同様に第1産業に1単位の需要が発生したとします.この場合に,第1産業に1.05単位の需要,第2産業に0.70単位の需要が第一次波及効果として発生しました.この値に雇用者所得係数を掛けて雇用者所得の増加額を計算してみると,第1産業に0.35単位の雇用者所得が,第2産業に0.21単位の雇用者所得が発生することになり,全体で0.56単位の雇用者所得が増加することが分かります.この値に消費転換係数を掛けることにより,消費の増加分を計算することができます.この場合には0.39となります.
この消費の増加分を各産業に産業連関表の値を用いて振り分けます.今考えている経済では,各産業20の最終消費が発生していますので,産業1と産業2に0.2の消費が発生することになります.(ここでの計算は少数第2位を四捨五入しています.)この誘発された消費額を
と置いておきます.ここから先は第一次波及効果の計算と同じで,
と計算できます.つまり,第二次波及効果の大きさは産業1で0.26,産業2で0.44であることが分かります.第一次波及効果と第二次波及効果を合わせたものを総合効果と呼ぶこともあります.