コラム

2007.10.24

プレック研究所の未来を照らす新社会資本整備新政策

杉尾 邦江:代表取締役副社長

プレック研究所は今秋(平成19年9月)株式市場での公開会社から非公開会社になりました。環境コンサルタントとして当社が市場から撤退を決めた理由は、公開管理に係るコストやエネルギー、ストレスから解放され、より社業の高質化に努力し、更なる会社の発展と持続性を高める運営を行うことにあります。
そのためには、プレック研究所は更にブランドの拡大とブランドの質を高めて行く事に全力であたります。

これまでも当社は環境問題、特に自然再生、都市再生、文化財保全、国土保全、持続可能社会の構築といったテーマで戦略的に研究を行って来ましたが、その成果により次なる新しいブランドを醸成しつつあります。又、これまでの研究テーマを振り返って見ると予期した以上に時代が要請している国家的政策の主要なテーマに合致していました。

今後、この戦略的研究センターによる政策研究は柔軟に、充実、発展させていきたいと考えていますが、これから注目して行うべきいくつかの研究テーマの一例を示してみましょう。

自然生態系調査分野においては生物をより人間の生存に関わる生物資源としての視点から捉えること。厳正且つ純粋な自然こそが価値が高いと云う評価概念から、里海、里山のような人との関わりや生活の場、生産の場との接点にある自然や、空間の評価結果、あるいは評価手法の見直しが必要であり、陸域から水域、海洋へも研究の対象を広げていくべきでありましょう。海洋資源は食料資源に留まらず、鉱物資源、エネルギー資源、レクリーション資源等極めて多様で豊富です。これらの資源保護、保全に関する研究や資源管理計画の作成は急務です。海洋権益に目覚めた各国の熾烈な争いが始まりましたが、世界が共有する公共財としての視点からの海洋資源の保全への関心も高まるでしょう。海洋に係る国家戦略は我が国もようやく重要な政策に取り上げるに至りましたが、此のような事をふまえて、当社の生態研究センターを預かるセンター長は2年前に海洋生態学の専門家にお願いしました。更に、文化的景観の概念が一般化したように、自然や生態系にも文化歴史的視点からの評価を導入した「文化的生態系」、「文化的生物多様性」という概念の検討も課題です。

国はこれまでの公共事業のイメージを刷新するような政策が必要でしょう。政府は公共事業の一般国民への分りやすい説明によって、理解を求め、公共事業は悪しきものと云うイメージを払拭させるキャンペーンを行うべきです。真に国民にとって持続的な経済発展はもちろん、安心、安全、快適、国民の健康と幸福が保証される美しい国土の創出と保全にかかる事業こそが真に国民にとって望ましい公共事業である事を国民が理解できるようPRし、国民と問題を共有することが欠かせません。この様な戦略的プログラムを考える事も当社の「社会資本整備研究センター」の今後の研究課題となるでしよう。

国の社会資本整備に係る新政策としては、地球温暖化防止等の環境問題、景観保全更に文化、歴史の継承と保全活用、地域活性化への取組みといったソフトな政策に加重がかかって来ている事が近年の傾向です。其の事は公共事業費の毎年の大幅削減の中での予算配分にも見られます。

総ての政策実行には広く国民の理解と国民の積極的な参加が必要です。一方ある政策を実行するために多額な無意味な宣伝費が浪費されていることも見逃せません。政策実行には常に評価とフィードバックのフローが生きていなければなりませんが、そのためには公共事業であれば、その事業が適切であるか、その必要性、適切性についての公平かつ理解しやすい方法での事前評価、いわゆる計画アセスメントが、公共事業の計画決定には不可欠です。

国際的にも国連がミレニアム宣言とミレニアム目標を示し、その中で環境問題は気候変動に焦点を当てた形で国際的関心事として重要課題とされました。この深刻化する環境問題への世界的取組みは、当社の今後の進路を明確に示しています。これは会社創設時からの変わらぬ当社の事業コンセプトにも合致しているところです。

このようにグローバル化する社会の課題への対応と貢献は、我が国の安全と繁栄にも繋がるものでありましょう。

一方国内では公共事業費の削減は年々加速しています。

しかし、行財政改革は継承しつつも世界第2位の経済力を有する国として適切で必要な公共事業によって豊な国として持続されなくてはなりません。

政府は特命委員会を設置し「都市と地方の格差是正策」の検討を開始し、「地域活性化・再生は最重要課題である」と位置づけ「地域活性化のための政策・施策」の立案、提言を行う事を明らかにしました。財源確保や、地域住民の視点のとり入れ方、政策実現のための戦略的手法等は手探りの状況であるが、地域再生、活性化問題には当社が得意とする業務が今後の政策を核とする周辺に存在する事は確かです。例えば、観光の活性化には、その資源としてのベースに、優れた景観、自然資源、歴史、文化的資源があり、これらの保全活用政策等への当社の取組みは増加しています。また、政策形成には科学的知見の反映が不可欠ですが、現在では景観の経済的効果も定量的に評価されるようになりました。人が安心し幸せに生活出来る環境や空間の創造には科学的知見のみによって評価されるものでもなく、人間の心を豊かにする、感性、芸術、文化的側面からのアプローチも必要でこれには最近出番を失いかけているランドスケープアーキテクトの参加が求められるでしょう。

社会資本整備計画法によってこれまで各省庁が縦わりに行っていた事業が一本化され、連携強化にも最近目覚ましい進展が見られます。横断的な目標設定と事業化に於ける役割分担はそれぞれの省庁の特徴をふまえて、バランスを保ちながら効率的に行われる事業は加速するもと考えられます。更にそれぞれの事業の共通テーマとして、自然資源の継承、自然環境保全、景観保全と創出、自然との共生、再生と創出、生態系の保全と再生、緑のネットワークの形成等々はヒートアイランド現象の緩和、地球温暖化防止と云うピラミッドの頂点にある共通の目標、課題に向かって事業の共有や、連携が進む事は誠に喜ばしい事です。更に最近では歴史、文化や観光行政といったソフト事業を具体的な整備段階と云うステージに、所管の省庁を超えて協力的に連携して、新たな役割を果たそうとしており、今後このような分野の事業に大きな進展が見られる筈です。

この様に、我々のこれまで最も特意としてきた、環境、文化の分野が各省庁の政策体系に保全と創出のための政策がしっかりと位置づけられて来た事は意義深く思います。この事は国土交通省関係の平成20年度の予算概算要求を見ても横断的な政策課題に対して前年度比約3倍近い予算を、又地球環境の保全には8倍以上の予算を要求していることに見ることが出来ます。

この横断的な政策課題の対応に図らずもプレック研究所が環境をメインテーマに据えて対応すべく設置した6つの戦略的研究センター(生態研究センター、文化財保護研究センター、持続可能環境・社会研究センター、都市再生緑化研究センター、防災・砂防研究センター、社会資本整備研究センター)の組織も横断的連携組織です。これら研究センターが国の新たな環境施策に積極的に係って行くのみならず、新たな施策の提案にも積極的に参加していく所存です。

さて、公共事業の計画策定、事業促進にPI(パブリック・インボルブメント)を導入するシステムが確立しその普及は目覚ましいものがあります。PIの導入によって公共事業の質が篩い、濾過され、効果によって高められ、課題を市民と共有する事によって、一般市民の理解、協力が進み事業は恊働され、より円滑に進む機会が得られやすくなったと考えられます。しかし、PIの円滑な導入には、PIの企画、実施に優れたコントロールと実践、活動へと向けられる演出的プロセスの構築にはコンサルの参加と能力が問われる事となります。これからも多くの政策、施策の実行にますますPIが導入されましょう。公共事業の適切な推進を支援し、参画して行く事は我々コンサルタントにとっても重要なマーケットとして期待出来ます。

予算規模の拡大傾向はソフト型事業に現れ、そうなれば、各省庁の技術サイドの アウトソーシングも進む事でしょう。今後頭脳分野でのコンサルタントの役割は高くなり、行政や国民へ一層質の高いサービスが要求されます。

以上の様な考察によれば、当社にとって、環境コンサルタントとしての業務は今後益々増大すると期待しています。我々がやらなくてはならない多くの価値ある業務が我々を待っているという明るい未来を感じているところです。

日本国内は勿論、国際レベル、地球レベルで緊急且つグローバルな問題として人類の生存を継承すべき持続可能な社会の構築と環境のため解決対応すべき課題に世論に先駆けて6つの戦略的研究センターは研究に取組んで来ました。更に非公開会社となった今、本年はプレック研究所設立35周年を迎える節目の年でもある新生プレック研究所は未来に向かって新たな歩みを始めます。多くの課題に対し日本国民、更に世界人類の平和と幸福のため真摯に社業に取り組んで行きたいものです。又そのような機会を得られる事に我々は感謝し喜びを感じるものであります。これからも多くの皆様の御支援、御教示、御協力を心よりお願い申し上げます。

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